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特別講演 JICC年次総会特別講演 2002年5月23日 
 「ハイテク拠点」イスラエルの最新動向
 特別講演 JICC年次総会特別講演 2002年5月23日 IT講座

特別講演
(1)イスラエルのシリコンバレー (2)イスラエルの産業について (3)イスラエルのハイテク企業について

 ●イスラエルの先端技術について

最近イスラエルの先端技術が色々と取り沙汰されているが、先ず誤解のないように明確にしたいのは、イスラエルの先端技術が特別 視されるものではないということである。つまりイスラエルの先端技術が特別 に優れているということではなく、日・米・欧との比較の上では、夫々に優れたところがあり一長一短があるということをご理解頂きたい。 しかし、中東の小国また一般 的には「戦争ばかりしてきた」国のイメージは払拭すべきであり、ハイテク技術に注力する技術立国を目指し、それが実現した国家であることをご理解頂きたい。イスラエルを一言で表現するならば、イスラエルの方々には失礼かもしれないが、米国の51番目の州もしくはシリコンバレーの飛び地とでもいうのが最も適切であろう。我々日本人から見れば、イスラエル人の思考形態、ビジネス文化は米国のそれと同一と理解して先ず間違いはない。人と異なる考えに対する価値観が高く、チャレンジ精神が旺盛で、開発技術に重きを置くのが同国の特徴であろう。従い、生産技術は、日本と比べて大して見るべきものはない。企業規模は比較的小さく、トップクラスの企業であっても日・米・欧のトップクラスの企業の約10分の1程度である。参考までに、1996年度の上位 10社を次に示す。

順位

(1996)

企業名
分野

売上

(US$百万)

従業員数

(人)

順位

(1995)

1 Bezeq 通信事業 2,549 8,671 1
2 Israel Electric Corp 電力供給 2,167 13,211 2
3 ORL 化学・鉱業製造 2,063 1,593 3
4 Tnnva Marketing 流通(卸) 1,696 3,562 4
5 Israel Aircraft Industry 機械製造 1,467 13,083 6
6 ZIM 海上運輸 1,415 3,963 5
7 Blue Square 流通(小売) 1,264 6,300 11
8 EL AL 航空運輸 1,195 3,524 8
9 Tadiran 通信機製造 1,117 8,260 9
10 Shupersal 流通(小売) 1,068 6,378 7


 ●技術先進国としての環境
イスラエルは技術先進国としてのイメージが定着しつつあるが、その背景として次の3つの要素があげられる。

 1.技術系労働者の比率の高さ:

就労人口1万人当たりの技術者の数は、米国で約80名、日本で約75名と言われているが、イスラエルは130名となっている。比較的安価な賃金で(日本の約半額程度)高度な技術者の雇用が可能である。これをうまく利用しているのが米国の巨大企業であり、IBM、 Motorola、Intel、Digital Equipment、Microsoft、National Semiconductor等が研究開発部門をハイファに設置している。

 2.OCS(Office of Chief Scientist)による研究開発助成制度:

1984年に制定された「産業研究開発助成法」により、貿易産業省傘下のOCSが研究開発プログラムを助成している。これは、ベンチャー企業のみを対象とするのではなく、大手企業であってもこの制度を利用することが可能である。ベンチャー企業の場合には、研究開発費の最高66%、既に確立された企業の場合には最高50%までをOCSが拠出し、製品化に成功した場合にはその販売代金の3%のロイヤリティーにより返済する仕組みである。製品化に成功しなかった場合にはその返済は免除される。10以上のプログラムが準備されているが、年々その利用率は増加しており、1991年には940件に対し179百万ドルが拠出されたが1995年には1,220件に対し346百万ドルが拠出されている。一方ロイヤリティーによる拠出金の回収も順調に増加しており、1991年には20百万ドルの回収額であったのが1995年には56百万ドルとなっている。

 3.欧米企業によるイスラエル企業の買収とイスラエル企業に よる米国での上場:

過去3年間、Intel、3-COM、Bay Networks、U.S. Robotics、Siemens、Volvo、Madge等欧米の著名な企業がイスラエルのハイテク企業を買収し始めている。また、80社以上のイスラエル企業(ほとんどが技術系の企業)が米国証券市場に上場しており、その資本調達額は150億ドル以上となっている。昨年度1年間を見ても、19社が米国での上場を果 たし(570百万ドル)、総額約10億ドルが米国にて調達されている。


 ●イスラエルハイテク産業の特徴と事例

どのようなイスラエル企業が世界市場で活躍しているのかについて触れてみたい。イスラエルハイテク産業はいくつかの優れた分野を有するが、特に顕著なものは医療診断システム、情報通 信技術、コンピューターソフトウエア、防衛関連であろう。それらについて簡単に紹介してみたい。  

 医療診断システム

Elscint社が最も著名であるが、同社はハイテク関連の持株会社のElronの傘下企業である。同社のCT(X線診断装置)並びにMRI(核磁気共鳴診断装置)は世界的にトップクラスにあり、日米欧の一流企業としのぎを削っている。また、Medis EL社(米国NADAQ上場)は、IAI (Israel Aircraft Industry)社より生まれたベンチャー企業であるが「Cell Scan」と呼ばれる人間の免疫システムを利用した新しい癌の診断システムを開発した。これは、被検者に検査対象の癌細胞があると、被験者の白血球は必ずその癌細胞と戦った記憶がある筈で、その記憶を呼び戻すことにより診断しようとするシステムである。被験者の血液をわずか採取し、その白血球を分離した上で検査対象の癌の抗原を与えてエネルギーを照射し、その結果 を分析することによりおよそ5分で診断出来るというもの。現状、乳癌の検査に極めて有効である言われ、従来の「マモグラフ」(X線写 真による検査)に比べ高い確率(80%)での発見が可能であると評価されているが、理論上は検査対象の癌の抗さえ作れれば全ての癌の検診に適用できると言われている。

 情報通信技術

上記10大企業にランクされているTadiran及びECI Telecom社が双璧であろう。ともに、ATM伝送技術及びSDH(Synchronous Digital Hierarchy)等光伝送システムでは世界のトップクラスとして認知されている。移動体デジタル通 信では、DSP Communicationsが心臓部のアルゴリズムを含めたチップセットの供給で多くの実績を有している。また衛星通 信分野でもGilat社がVSAT(超小型衛星地上局)システムで有名である。これらの企業は全て米国の証券市場に上場されている。さらに、赤外線通 信分野はイスラエルが進んでおり、Eldat社、Elpas社、Moldat社等のベンチャー企業が赤外線を利用した無線LAN並びにロケーションシステムを開発し、日本並びに欧米での販売が拡大し始めている。  

 コンピュータソフトウェア

イスラエルのハイテク産業としての特徴が最も良く現れている分野である。AMDOCS社は、米国の地域通 信事業者であるSouth Western Bell社が50%の資本を持つソフトウエア会社であるが、通 信事業者向けの「課金システム」では米国の大手事業者向けに加え世界各国に実績を有している。またインターネット分野では「インターネットフォン」を開発しその名付け親となり世界市場の約70%のシェアを持つVocalTec社(NASDAQ上場)、また「ファイアウオール」では世界的なトップ企業となったCheck Point社(NASDAQ上場)等はイスラエルの企業としてではなく、この業界のリーダー企業として有名な存在となっている。

 防衛関連
冷戦終焉により世界の防衛産業は再編成を迫られているが、イスラエルも例外ではなく各社が民需転換に躍起となっている。しかし、国の存亡に関わる防衛産業にはやはり多額の投資が行われており、先端技術の粋を集めた開発が行われている。前述のIAI社は次世代防空ミサイルシステムを開発中であり、この技術に注目した米国国防省が開発費の一部を援助している。これは湾岸戦争時に米国より供与されたパトリオット防空ミサイルシステムが、結果 として機能しなかったことの反省より開発がスタートされたと言われている。また前述のElron社傘下のElbit Systems社は、軍用機用の火器管制ヘルメットシステムを開発、日本の防衛関係者も興味を持っていると言われている。同社はさらに、旧ソ連製及び米国製の戦闘機のアップグレード(航法システム及び火器管制システムの積み替えにより機体の近代化をはかること)において欧州を中心に多大の実績を保有している。


このようにイスラエルは所謂ハイテク技術を核とした技術立国を目指し、同国は既に世界的にも「ハイテクセンター」としての評価が定着したと言っても過言ではなかろう。日本の経済界においても、従来の偏見が未だ一部散見されるものの、情報産業界では概ね認識が改まり、イスラエルのハイテク産業界を米国のシリコンバレーと同一視する考えが一般 的になりつつあるとの手応えを感ずるこの頃である。イスラエルへの出張者の数は、増加の一途を辿り、同国のハイテク産業界を対象とした半導体の輸出を本格化した日本の半導体メーカーも出現した。このような状況より判断するに、イスラエルとの完全な関係正常化も、同国のハイテク産業界を突破口とすることにより、極めて近い将来には実現すると確信する次第である。

(以上)


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